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映画「淵に立つ」と「しゃぼん玉」

先月は大阪アジアン映画祭でたくさんの映画を観たけれど、毎日映画を観るのに忙しくてとても観賞記録をつけている暇がなく。

今日は日本映画を2本。リバイバルの「淵に立つ」はシネマ会員500円で、新作「しゃぼん玉」の方は、たまったポイントを使ったので無料。500円で2本はなかなかお得感あり。

「淵に立つ」は、深田晃司監督作品。すでにいろいろな賞をとっているけど、最近では香港で開催されたアジアンフィルムアワードで主演の浅野忠信主演男優賞を取ったことでも話題になった。

 深田監督の映画は「歓待」と「ほとりの朔子」を見たことがある。「ほとりの朔子」はそうでもなかったけれど、「歓待」は日常の中にいつの間にか滑り込んでくる「異」なるものを描いてどことなく不穏で不気味なところがあった。

 「淵に立つ」もその系譜につながる作品。深田監督の作品の常連である古館寛治の演じる町工場の実直な社長とその家族の平穏な暮らしに、「昔の友だち」だという八坂という男が現れて入り込んでくる。そして、ある日、ある事件をきっかけに、また忽然と消える。そこには予想されたような、あるいは、予想を超えた禍々しい出来事が含まれるのであるが、最後まですっきりするような解は描かれない。

 浅野忠信の白いワイシャツとその下に着ていた赤いシャツ。娘の蛍の発表会用の真っ赤なドレス。川遊びの時に見かけた赤い花。赤が象徴的に使われる。その花がまったくの造花というかニセモノであることが見え見えなのが興ざめなのだけれど。人間の薄気味悪さをとことん追求したとも言えるかな。ある意味、ホラーよりもホラーと言える映画だ。

 「しゃぼん玉」の方は、宮崎県椎葉村を舞台としたご当地映画として作られたのかと思ったら、乃南アサ原作の映画化だった。犯罪を犯し、逃げる途中で、車から放り出されてたまたま椎葉の山奥に辿り着いた青年と、彼を拾って世話をしたスマおばあさん。シゲ爺と呼ばれる土地の男性に連れられて山仕事をするうちに荒んだ心に変化が訪れる。

 乃南アサというとミステリーのイメージが強いけど、こういう小説も書いているのだな。ストーリーに新味はないが、椎葉の自然と村の人たちの雰囲気、俳優たちの演技のうまさで、いい感じの映画に仕上がっている。スマ婆を演じる市原悦子がほんとうにうまい。私は20代の一時期、この椎葉村に何度も行ったことがあるので、ここの人達の話し方に馴染みがあるのだけれど、市原悦子の口調は、ほとんど村の人並みだった。ただ、エンドロールで「スマ吹き替え」「シゲ吹き替え」とあったのは、宮崎ネイティブの人によるせりふの吹き替えがされていたんだろうか?でもまったく市原悦子の声だったように思うのだけれど。

 椎葉は長いこと訪れていないけれど、懐かしい土地なので、映画の中で再会できてうれしかった。

 観客は10人程度しかいなかったんだけれど、すぐ近くの席の女性の反応がおもしろくて。

主人公が地面に座り込んでくるところに、やってきた車のドアがいきなり開き、後頭部をガーンとぶつけられるシーンでは「あ痛ッ」、食べようとしたおにぎりが手を離れ、ころころと坂を転げていくシーンでは「あらぁ〜」と思わず声が出てしまうみたいで、他の観客も笑い声をかみ殺していたと思う。劇場内で思わず声が出てしまう人がいても、とげとげしい雰囲気になることはなく、その気持ちわかるわかる、とみんなで包みこむような気持ちになる、そんな暖かい映画だった。